高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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会長講演 2
患者さんと語り続けた 40 年 : 認知症の人物誤認症状を考える
松田 実
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2020 年 40 巻 3 号 p. 239-249

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抄録

  本報告で検討対象とする認知症の人物誤認症状は, 全般性の認知障害は強くはない段階で, 「当然分かるはず」である特定の人物を妄想的に誤認する症状である。自験症例の言動や「語り」から見えてくる患者の体験を推測し, 人物誤認の成立機序について, 以下のような推論を行った。人物誤認の起こる頻度はアルツハイマー型認知症 (AD) よりもレビー小体型認知症 (DLB) に高く, そこには生物学的機序が働いている。DLB の人物誤認では重複現象を伴っていることが特徴的であり, その要因として空想と現実の区別がつきにくくなるような注意覚醒レベルの変動が関与していると考えられる。AD における人物誤認の成立には生物学的機序よりも心理的機転の方が重要であり, 患者にとって辛く耐え難い現実を否定したいという潜在的欲求が働いている場合が多い。ADでも DLB の場合と同様の生物学的機序が, 逆に DLB でも AD の場合のような心理的要因が重なっていることが推測される。

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© 2020 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
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