2020 年 40 巻 3 号 p. 250-260
てんかん患者の約 3 割は薬剤に抵抗性であり, 治療の選択枝としててんかん焦点の切除術が根治療法として知られている。てんかんの焦点と焦点周囲の機能野の同定を行ったうえで, 言語機能など重要な脳機能野の温存を図りつつ, 焦点を症例ごとにテーラーメードに切除する。従来から電気生理学を中心とした神経生理学的手法で術前脳機能マッピングが行われてきたが, 高次脳機能の探索には認知神経科学と神経生理学の融合 (Cognitive Neurophysiology) がかかせない。本稿では言語機能の中で特に意味記憶に焦点をあてて, 低侵襲の高頻度皮質電気刺激変法, 皮質脳波信号解析・デコーディング, 電気的線維追跡法 (皮質・皮質間誘発電位計測) といった新たなシステム神経科学的手法を複合的に用いた言語二重経路の同定と温存の試みについて紹介する。意味記憶関連領域の切除では術後回復する症例が経験され, 学際的な縦断研究から術後の代償機転の解明が望まれる。