2020 年 40 巻 3 号 p. 328-337
過去における左視床損傷後の失語の症例報告では, 理解の障害は軽度で失構音はなく復唱は良好であるが, 発話では喚語困難や語性錯語を認める例が多く, なかでも無関連錯語の出現が特徴的であるとされている。しかし, 実際に無関連錯語の出現が多いか否かは明らかではなく, その出現機序も調べられていない。今回われわれは, 無関連錯語を手がかかりとして視床失語の背景に迫ることを試みた。その結果, 全誤答数に占める無関連錯語の割合および有関連錯語と無関連錯語との比は, 視床失語群が非視床失語群に比べていずれも高い結果となった。われわれが過去に報告した視床失語の 1 例からは, 無関連錯語と選択性注意機能の関連性が示唆された。
過去に提唱された視床失語の機序も考慮すると, 左視床損傷によって目的の語と関連する意味野を活性化できず, 関連しない語彙を不活性化できないことで目的の語彙が選択できず, 視床失語に特徴的な発話に至る可能性が考えられた。