2014 年 2014 巻 24 号 p. 204-216
目的:日本の伝統的芸能全般において代表的な演技技法の一つであるすり足歩行=ハコビの序破急のリズム展開を定量的データによって説明することを目的とした.方法:対象は人間国宝を含む4名の狂言役者であった.ハコビの時間的条件(T)と空間的条件(S)を実験的に様々に設定し,彼らのハコビの映像を記録した.得られた映像から所要時間(A1),歩数(A2),ステップごとの所要時間(A3),足を踏み出すタイミング(A4)を分析し,そこから速度変化の調整を行うステップ(E1)と調整の技(E2)について調べた.結果:次の3つの技を特定できた.1;速度変化の調節を行うステップ(E1)は,加速では2nd Stepまたは3rd Step,減速ではラストステップである.2;調整の技(E2)には,歩数のみならず歩幅で空間の広さを調整する技がある.3;ある条件が整う場合には,2nd Stepまたは3rd Stepに足の踏み出しを遅らせる技がある.これらの技を用いてハコビの序破急のリズムとテンポが生み出されていることがわかった.特に序から破への展開は,自然対数によって高い精度で近似できた.結論:ハコビに序破急のリズム展開を加える難しさは,序から破への速度変化を自然対数に近似したリズムの規則性に則り体現することにあると示唆できた.