2016 年 2016 巻 26 号 p. 168-172
本研究では理想自己と現実自己の差異と,非機能的・機能的自己注目である「反芻」「省察」が,劣等感に与える影響を検討した.青年は自己概念の不明確さから,自己認識の行動を多くとり,その過程で他者や理想自己と現在の自己を比較する中で,劣等感を感じる.しかし劣等感とは,青年にとって適応上の障害ともなり得る感情であり,青年は何らかの対処が必要となるだろう.その具体的な対処手段について,自己注目という観点から検討を行うことが有用であると考えられた.338名の大学生を対象として質問紙調査を行い,278名の回答を得た.重回帰分析の結果,理想自己と現実自己の差異と反芻は,それぞれ劣等感に対して有意な正の影響を与えることが示唆された.さらに理想自己と現実自己の差異は,反芻にも有意な正の影響を与えることが示唆され,反芻が理想自己と現実自己の差異と劣等感を有意に媒介していた.また省察は理想自己と現実自己の差異と有意な関連が見られなかったが,劣等感に対して有意な負の影響を与えることが示唆された.また交互作用の検討からは,反芻を高めず,省察のみを高めることが最も劣等感低下に効果的である可能性が示された.