人間生活文化研究
Online ISSN : 2187-1930
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原著論文
「教条主義の母,フランス自由主義の母」が意味するもの
―第三共和政期のジェルメン・ド・スタールとオルレアニズムの再生―
武田 千夏
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2020 年 2020 巻 30 号 p. 245-267

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抄録

第三共和政以来,フランス政治思想史研究においてジェルメン・ド・スタールには「教条主義の母」「フランス自由主義の母」という二つの呼称があった.ブロワ伯爵らオルレアニストとの関係性を重視した場合「教条主義の母」,Bコンスタンとの政治思想的親和性を重んじた場合「フランス自由主義の母」と呼ばれた.スタールの脇にいた著名な男性の思想家,政治家のうちの誰に焦点を置くかによってスタールの呼び方も異なるという状況は,フランスの男性知識人が政治思想家としてのスタールの独自の立場を軽視した史実を示す.本論文では主に第三共和政期のフランスの男性知識人によるスタール論を取り上げ,自由主義者の一派オルレアニストの「女嫌い」の傾向が「教条主義の母」「フランス自由主義の母」という呼称につながっていったこと,そして「女嫌い」のベールの背後でスタールの政治思想がオルレアニストに対して実質的な影響を及ぼし1930年代の議会主義の危機の時代に「教条オルレアニズム」が再生したこと,その結果第三共和政の時代にフランスで自由主義思想が健在だったことを明らかにする.

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© 2020 大妻女子大学人間生活文化研究所
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