人間生活文化研究
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国際公衆衛生分野のグローバル・ガバナンスにおける国際機構:WHOとEU
井上 淳
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2021 年 2021 巻 31 号 p. 124-143

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抄録

 本論文は,WHOとEUに焦点をあてて国際社会における保健,公衆衛生のグローバル・ガバナンス——問題管理のありよう,多様な行為主体による国際問題管理のありよう——を検討するものである.COVID-19感染拡大にともないWHOが批判されたが,条約や憲章に基づいて運営される国際機構には,構成国に対して発揮することができる権限,そして予算にはそもそも制限がある.

それゆえ,国際機構やNGOといった多様な非国家行為主体によって支えられるグローバル・ガバナンスが成立する訳だが,本論文はそのガバナンスにおける国際機構の取り組みを検討する.

 検討の結果,健康を多面的にそして権利だと捉えて取り組みを発展させてきたWHOの「平時」の取り組みとは裏腹に,「有事」の新興(未知の)越境感染症対策においては,21世紀以降のグローバル化の様相とグローバル経済における中国の位置づけを踏まえずに,「貿易(人の移動と交易の自由)か防疫か」という二択の論理を旧態依然として維持していることが判明した.EUについての検討を通じても,WHOの検討と同様,「平時」の取り組みが発展してきたこととは裏腹に「有事」とりわけ「域外」からの新興越境感染症対策において脆弱さが見られた.人,モノ,サービス,資本の自由移動を掲げるEUにとって,防疫による人の移動ならびに貿易への影響は最小限にとどめたかったところだが,「域外」から流入した感染症に対しては脆弱で大きな打撃を受け,復興には多大な費用と労力,経済成長,そして加盟国間の結束が必要になる.

 いずれのケースでも脆弱性が見られた「有事」の取り組みについては,構成国が承認していて,それゆえ本来なら遵守すべき条約(EUの場合は二次法)が関わっている.新興越境感染症対策を改善するのであれば,こうした条約や法の改善ならびに構成国による遵守(コンプライアンス)が急務であり,国際機構はもとより構成国の意思と遵守,コミットメントがより問われる.

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© 2021 大妻女子大学人間生活文化研究所
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