人類学調査の歯の計測において,歯冠近遠心径,歯冠頬舌径は基本的な計測項目である.これらの計測値をグラフで示す場合,計測項目ごとに別のグラフにプロットして分析することが多い.本研究では座標平面のX座標に歯冠近遠心径,Y座標に歯冠頬舌径をとると,歯冠近遠心径,歯冠頬舌径の値から歯の指数で代表的な,歯冠モジュール(Crown Module:(歯冠近遠心径+歯冠頬舌径)÷2)と歯冠指数(Crown Index:(100*歯冠頬舌径)÷歯冠近遠心径)も同じグラフ上に示すことができるよう工夫した.このように歯冠近遠心径,歯冠頬舌径をもとに4変数を1つのグラフ上に示すことができる,歯冠多次元チャート(Dental Proportion Chart: DPC)を考案・作成した.歯冠の大きさとプロポーションは,歯種に伴う変化が大きくその変化のパターンには関心がもたれてきた.DPC上に中切歯から第三大臼歯の歯冠近遠心径,歯冠頬舌径をプロットすると,歯冠モジュールと歯冠指数の変化も一目でわかり,DPCを用いることにより,歯冠の大きさとプロポーションを同時に把握することができる.歯種による歯冠の大きさやプロポーションの変化から,歯の左右差,上下顎の差,個体差などの分析,また集団の各歯種の歯冠の平均値の変化パターンから,人種差,男女差などの分析に有用であるだろう.