2021 年 2021 巻 31 号 p. 286-291
本研究は大妻女子大学戦略的個人研究費の助成を受けて実施した,ラオス,タイでの伝統的な染織品の実情を調査した結果について考察するものである.筆者はラオスのヴィエンチャン,ルアンパバーン,タイのチェンマイ3つの都市部で伝統的な技法で織物を織っている工房,それを販売しているギャラリーなどを訪ねて調査を行った.ラオスでは,現在でも若い女性が自ら糸を染め,伝統的な機で手織りをしている状況が分かり,技術の継承を積極的に行っている工房があることを確認できた.また,これらを販売するためのギャラリーも多くあり,外国人観光客などに人気のあることも確認できた.チェンマイでも昔ながらの技法で手織りの布を織っている工房もあり,中心部の市場には周辺民族の伝統衣装を扱っている店も多くみられた.また,山岳民族などの生活を支援するフェアトレードの店も多くあり,そのような店には洗練された商品が多く展開していた.おおむね伝統的な染織が彼らの生活を支えていることも理解できたが,一方で,自家用に作ってきた染織品が販売され収益になるということは,自分たちの作った染織品が商品になるということであり,商品として売れるものを作る必要が生じる.このような現象が各少数民族の伝統技術や伝統的な文様に影響を与えるのではないかと推察され,今回の調査から危機感を抱いた.
染織が流行とともに変化していくことは当たり前のことではあるが,その流れが急激であったり,外から強引にもたらされるものであれば,自分たちが培ってきた衣服文化を崩壊させることにもつながる.伝統的な技術や文様がいまだ残されている現在,昔ながらの染織とこれからのテキスタイル両方を見据えて,さらなる調査分析をする必要性を感じた.これについては今後の研究課題としたい.