2024 年 2024 巻 34 号 p. 26-52
本稿は,旧英領バルバドスの圧倒的少数派であるヨーロッパ系市民がどのようにマイノリティとしての「白人」認識を持つようになったのか,また白人としての経験にどのような蓄積があるのかを探求した.2016年と2017年はバルバドスでヨーロッパ系市民を対象にオーラル・ヒストリー聞き取り調査,2021年と2022年にオンライン補完聞き取り調査を行った.肌の色の違いには学齢前に気づくが,自身が「白人」であることや人種的な社会境界については,多数派であるアフリカ系の同級生との日常的な交流をもとに10代で気づくようになる.白人至上主義思想や人種差別的な社会不平等を正当化する特権意識に対する非難,そして人種間の不平等が当然なものとして存在する社会に対する白人としての歴史的責任の認識が聞かれた.他方で若者は,白人という理由だけで特権を享受できる時代は終わったとして,白人が優遇される人種間の不平等の存在自体を否定した.