2001 年 10 巻 p. 79-87
本稿は、森田伸子氏のフォーラムでの発表および大幅に書き換えられた論文において、森田氏が論じようとしていた問題の射程がどのようなものであるかについて考察したものである。森田氏は、「読み書き」をめぐる思想史を主体形成との関連で問うことが発表の目的であると述べているが、その議論は主体化の問題を超えて、作文教育に体現されている近代教育思想そのものへの問い直しを迫るものであると理解した。この点を明らかにするために、まず日本の作文教育における「ありのままに」書くというイデオロギーが持っている問題構図を、J.デリダのルソー読解を参照しつつ明らかにした。そして、論文において新しく森田氏が論じたフランスの作文教育実践については、それらが生活世界における物語行為を目的意識的に教室という場で凝縮して実現しようとしたものであり、それゆえにこそ作文教育をめぐる思想において近代教育の矛盾が明らかになることを論じた。