近代教育フォーラム
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日本のなかの「考える」「聴く」「話す」「読む」「書く」(コメント論文,フォーラム2 読み書きの思想史)
片桐 芳雄
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2001 年 10 巻 p. 89-100

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抄録

本稿は、森田伸子氏「近代教育と読み書き思想」に触発されて、ヨーロッパと比較しつつ、日本における読み書きの歴史と思想を検討したものである。読み書きの前提にある日本における話すことは、家や村落共同体の「共同の思惟」もとで、他者に向かっての言説行為として鍛えられることはなかった。このような状況のもとで江戸時代の読み書き文化は、武士・上層庶民の学問塾での読書(読み)と、一般庶民の手習塾での手習(書き)との二系列で展開したが、これらは共にテクストに忠実であることを至上とするものであり、「精神の働」(福沢)の欠如という点で、共通していた。19世紀前半以後、民衆識字化は急速に進み、ヨーロッパと比較しても相対的に高くなったが、この急速な展開は、考えることと書くこととの間に新たな「空隙」を生じさせた。この「空隙」を埋めるものこそ樋口勘次郎、芦田恵之助、小砂丘忠義と承け継がれた作文教育論であり、日本の「近代教育」論の典型の一つであった。

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