2001 年 10 巻 p. 235-247
『児童の世紀』(1900)が、子ども中心主義の教育学の先駆的著作として、20世紀初頭に生起した世界各国の新教育運動に影響を与えたことは、よく知られている。しかし一方で、この著作に展開された教育思想が優生学から少なからず影響を受けていることも、しばしば指摘されてきた、本稿では、『児童の世紀』における子ども-大人関係の構造を、この著作の記述に即して解明し、それを通して、子ども中心主義を強く訴えたケイの教育思想のなかで優生学的な言説が果たした機能について考察する。その際、子ども中心主義の教育思想とともにケイの思想の通奏低音をなしている母性主義思想に着眼しつつ、考察を進める。この考察結果に基づいて、子ども中心主義の教育学を基礎づけてきた理念、すなわち、子どもは<自律的な主体>である、という理念が内包する問題点について指摘したい。