抄録
過去のハンナ・アレントに関する諸研究は、彼女の教育についての議論の保守主義的な側面を強調してきた。しかし今日、アレントの著作の新たな解釈はこうした見解を退け、その進歩的な側面を強調するようになった。本論の課題は、近年のアレント研究の成果にもとついた新たなアレント解釈のコンテクストのもとで、アレント教育論に対する従来の評価を再検討することである。そしてその作業を通じて、アレント理論の教育学的受容の可能性を明らかにしたい。第一章では、初期のアレント研究における彼女の教育論の評価を検討する。第二章では、アレントの教育的権威論についてのM.ゴードンの解釈を検討し、第三章では、アレントの政治的子どもについての理解に対するエルシュテインの解釈を検討する。これらの検討から結論付けられるのは、彼女の教育論は、保守主義というよりもむしろ進歩的な教育理論として理解することができ、さらにまた彼女の教育概念は、私的領域に留まるものではなく、公的領域に拡大可能だということである。したがって、アレントの理論は、今日の教育学的議論に大いに貢献しうるものだということができる。しかしそれは、たんにアレント著作における進歩的側面のゆえだけではなく、多様な解釈の可能性のゆえである。