2011 年 20 巻 p. 101-115
本シンポジウムは、教育学研究がいっそう実学的要求にさらされている昨今、思想史的方法論にレリヴァンシーはあるのかという問いへの応答として企てられたと考える。本稿では、(1)20世紀チェコの哲学者パトチカの考察に依拠しつつ、「近代教育学の祖」と称されてきたコメニウスの教育思想のうちにむしろ近代教育への批判的契機が読みとられること、(2)コメニウスおよびパトチカの事例をとおして教育的思考における歴史的関心の本質性が示唆されること、(3)とくにコメニウスの自発性概念についての考察をとおして現代的な教育課題を考察する際にコメニウス教育思想に一定の意味が認められ得ることを示し、教育批判に対する思想史的アプローチの可能性について論じた。思想史的アプローチは、歴史的テクストをもとに所与の状況を否定の疑問形で問う。しかし、逆説的に言えば、このスタンスのうちに思想史的アプローチのレリヴァンシーがあるといえよう。