抄録
事業所が「社会的分業をなす場所的単位」(日本標準産業分類)である以上、その存立には社会とのつながり(空間の中で自らを位置付け、事業所の周辺諸環境との関係を構築すること)が必要である。すなわち、事業所は自らの存在を顧客などの周囲の他者に認識されなければその活動を円滑に遂行することは困難であり、その重要な位置を担うのが広告活動であると考えられる。本研究では、事業所が行なう広告活動の中でも、現実空間を媒体として社会とのつながりを媒介する活動に位置付けられる屋外広告物の掲出に注目する。 京都府丹後地方の幹線道路(国道)沿道計102kmの区間において、どのような事業所がいかなる屋外広告物をどのように掲出しているかについて、悉皆調査を行なった。その結果、事業所の存在を知らしめる屋外広告物として、本体に付属し、事業所本体を識別させることで事業所を空間上に位置付ける役割をもつ「自家用広告物」と、事業所本体に付属していないが、別の場所にある本体を指し示すことで事業所本体と広告物が置かれている場所を結びつける働きをもつ「事業所宣伝広告物」を抽出した。これらは屋外で確認できる広告物の9割以上を占めていた。また、事業所宣伝広告物の7割は沿道に本体が立地していない事業所の掲出物であった。 屋外広告物の掲出は、事業所が何らかのメッセージを空間上(の人間)に働きかけ、空間を自らの影響下に取り込もうとする行為である。それは、具体的には、自家用広告物の掲出により本体を空間上の点として位置付けることと、事業所宣伝広告物の掲出により、それを掲出した場所と本体を結びつけることで、面的な広がりのある空間を自らと関係付けることである。逆にいえば、屋外広告物の設置を通して空間が事業所に取り込まれているとみることもできよう。なお、屋外広告物を本体と切り離して展開している事業所は、全事業所の1、2割であると推定される。