人文地理学会大会 研究発表要旨
2004年 人文地理学会大会 研究発表要旨
セッションID: 106
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文学作品からみた近代東京における社会空間と景観
森鴎外『雁』を事例として
*双木 俊介
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抄録
本研究は森鴎外『雁』に描かれた景観・社会空間と近代初頭に実際の景観・社会空間を復原したもの比較し、森鴎外や当時の人々に認識されていた近代-特に、明治期-東京の都市像を考察するものである。その際、ブルデューの「ハビトゥス」の概念を用い、主体の経験と社会との関連性を考察し、当時の都市像を解明しようとした。  まず、登場人物の資本(経済資本・文化資本・身体化された諸特性)を指標として登場人物の行動圏の特徴を考察した。実際の地域については町単位で社会地区分析を行った。その結果、従来、東京における社会地区は山の手・下町の二項対立ではとらえきれない複雑な地区が把握できた。『雁』にあらわれた行動圏と比較すると、両者の特性はほぼ一致する。『雁』では資本配分とそこから生ずる各社会階級間の都市における社会的距離と物理的な距離を描き出す。  景観については『雁』の記述中における景観表現について描き方の差を検討し、景観表現を象徴化して場所ごとに差異化していることが明らかになった。実際の景観については「五千分一東京図」、火災保険取調掛『毎町家屋種類棟坪合計』などと地籍図をあわせ、家屋配置に注目して、明治初期の景観復原を試みた。その結果、当時の景観特性と『雁』における景観表現の特性はほぼ一致している。それは当時の社会的な景観のとらえ方に起因するとも考えられる。しかし、森鴎外の景観に対する表現方法は彼自身による独自とらえ方である。  このように、『雁』における登場人物の行動や景観は明治13年当時の都市像を象徴的に表したものといえるが、作者自身も東京に身をおき、社会階層の中に組み込まれており、そのような社会的な位置に応じた独自の表現が『雁』のなかにあらわれていると考えられる。
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© 2004 人文地理学会
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