人文地理学会大会 研究発表要旨
2004年 人文地理学会大会 研究発表要旨
セッションID: 103
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「風景」と「景観」の理論的区別の検討
*若松 司
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キーワード: 風景, 景観, , G. ジンメル
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抄録

本発表の目的は,G. ジンメルの風景論とそれを基礎づけている生の哲学の再解釈を通して,「景観」と区別される「風景」概念を提示し,landscape研究のオルタナティブを模索することである。 G. ジンメルはその風景論において,風景を眺めるという体験には,分析的に区別可能な二つの側面があると述べている。一つは,経験や感情の歴史的社会的に規定された形式という側面である。自然の一部を「風景」として捉えて審美的に観照するという体験は,風景画というジャンルの成立にもうかがえるように,時代的にも社会・地理的にも特有な感情の一形式に則って構成されている。ジンメルはこの側面を確認しつつも続いてもう一つの側面を,感情や体験の形式から溢流するものとして捉えている。「すなわち,直観や感情のうちに脈動する生が自然一般の統一性から自己を切りはなしはするが,こうすることによって創られ,まったく新しい層に移された孤立的形像は,いわばみずからすすんでふたたびかの総体の生にたいして自己を開き,その犯しがたい境界へ無限的なものを迎えいれるのである」(ジンメル1976: 168-169)。「風景」と名指される体験や感情の形式の側面が,ふたたび総体としての生に自らを開き,無限的なものを迎え入れる,このもう一つの側面において風景の体験および感情は生きられる。 風景の生きられている側面とは,地理学に現象学を導入したE. レルフが,科学的地理学には把握できない古くて新しい領域を開拓するだろうとした研究対象である。しかしながら,この研究対象はレルフ自身によっても,また後続の文化地理学者たちによっても追究されないままに残されている。本発表は,ジンメルの風景論を参照することによって,レルフによって提起されながらも積み残されたままになっている地理学のこの課題に取り組もうととするものである。

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© 2004 人文地理学会
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