抄録
塩沢由典らの複雑系の経済学を参考にして、工業立地論の現実化を図る。 産業間での立地の相互依存という観点から、消費地立地型の工業については、中心地理論により示された需要の不均等分布を前提として、立地を考察する必要がある。 企業は立地を決定するときに、満足化原理により候補地を絞り込んだうえで、候補地間での利益を比較して高利益地を選択できる。 工業立地論では収穫逓増を前提として考えるべきである。収穫逓増のもとで平均費用が下がるときに、寡占企業は、価格を限界費用に一致させて利潤を極大化するのではなく、フルコスト原理による価格設定を行う。この前提のもとで寡占企業の立地を考察することが望ましい。 寡占企業は製品を差別化するので、各企業の市場地域は重複する。一方、同種製品を複数工場で生産する場合は、企業内で市場地域が重複しないように、各企業は工場間での市場分割を行う。 次に、消費地立地型の工業を念頭に置いて、需要の増加に対応した企業立地の動態について考察する。まず企業内部での市場分割について考察する。企業は市場を小地域に分割し、その中心地と立地候補地との間の製品輸送費を算定する。立地に際して、企業は市場地域を工場間で分割し、この市場地域に小地域を配分する。工場の予想需要量を算定し、それに基づいて生産量、生産費を予想する。市場送達価格が均一の場合には、全工場での平均費用(生産費、製品輸送費、原料輸送費など)の最小地域が立地候補地となる。 工場渡し価格一定の場合に、市場送達価格の上昇が及ぼす影響を考慮して需要量を予測し、これをもとに算出した平均費用(製品輸送費を除く)の最小地域が立地候補地となる。 企業の立地競争では、価格の変動、生産量の増減を経て、他の市場地域への進出が行われ、立地競争が繰り返される。 こうして、満足化原理とフルコスト原理を中心に、寡占企業の立地行動を説明する。