1.はじめに 本報告では,同様の属性を有し,かつ「昭和の大合併」の際に中心都市と隣接町村に含まれた2つの旧村を選定し,その後の施策展開と公共投資にどのような相違がみられたかを検討する.さらに両地区を代表する大規模事業を取り上げ,その政策過程を比較することで,施策展開の相違が生み出される要因について考察する.事例地区には,栃木県宇都宮市豊郷地区と河内町古里地区を取り上げる.
2.事例地区における地域経営と施策展開 両地区で展開される事業は当初,小規模な道路整備事業などが中心で,投資額も低調であった.しかし,1970年代に入ると投資額の伸張が著しく,特に義務教育施設の整備に重点的な投資がなされた.
次に大規模事業の政策過程をみると,豊郷地区の宇都宮美術館建設事業では,政策の導入過程で行政機構が中心的な役割を果たしていた.政策執行の段階に入っても,市議会で事業の実施自体が争点になることは少なかった.
一方,古里地区の河内町総合運動公園屋内プール建設事業では,政策導入過程で行政機構が主導となったものの,建設地点をめぐって一部の議員が反発し,住民を巻き込んで町政が混乱する場面がみられた.
3.考察 宇都宮市のように,ある程度の規模を有する都市では,長期計画に基づいた事業執行が自治体経営の中心に据えられる.また,議員数や議員の地区代表としての役割低下などを背景として,意思決定において行政機構が相対的に高い地位を占めている.
一方,河内町のような町村部では,組織規模が小さいことに加えて,小規模かつ短期の事業が中心となることから,施行事業の選択に対する介入の機会が増加する.
以上のような政治的要因が,地域属性の共通性に起因する地域経営の類似点を超えた部分で,地区単位での公共投資や施策に差異をもたらすと考えられる.
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