人文地理学会大会 研究発表要旨
2005年 人文地理学会大会 研究発表要旨
セッションID: 505
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熊本県玉東町における柑橘栽培農家の二極分化
*助重 雄久
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抄録
1960年代の選択的拡大期に産地形成を進めてきた新興柑橘産地の多くは、1972年の温州ミカン価格暴落以降大都市市場での評価を得られないまま急速に衰退した。これに対して、新興柑橘産地の一つである熊本県玉東町では、個々の農家による地元市場の開拓や複合経営化等によって柑橘栽培を維持する動きがみられた。しかし近年ではあとつぎのいない農家を中心に柑橘栽培を縮小する動きが加速してきた。他方、あとつぎのいる農家では柑橘栽培面積を拡大する傾向がみられ、零細経営と大規模経営への二極分化が進んできた。
 こうしたなかで、大規模経営を指向する農家は柑橘栽培を縮小・中止する農家から園地を購入・借入することで園地面積の拡大を図ってきた。しかし、園地面積の拡大は生産量の拡大を目指すものではなく、品種更新期間中の収入確保や、園地の再造成による作業の効率化・機械化(スピードスプレーヤーの導入等)、ひいては人件費の節減によるコストダウンに大きく寄与している。こうした動きは、高級化による高収益の追求を重視してきた価格暴落以降の柑橘栽培とは異なり、日本農業の課題でもある低コスト生産や大規模化を指向する動きとしてとらえられよう。
 しかし、こうした動きは柑橘栽培を縮小・中止する農家の増加に支えられている側面があることも否めない。高齢化によって柑橘栽培を縮小・中止する農家が増加し園地の売却・貸出希望が購入・借入希望を大きく上回った場合は、廃園が増え健全な園地に病虫害等を及ぼすことも懸念される。
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