抄録
本発表は、モンゴルにおける商業、物資流通の状況を明らかにすることを目的とする研究の一環として、モンゴルの地方都市およびその周辺村落の商業、物資流通の状況を提示し、考察するものである。
モンゴルは市場化以降、物資不足の時期を経て現在へと至るまで、食料をはじめとする日用消費物資を外国からの輸入に頼るという輸入超過、生産少の状況にある。このなかで、その流通を担う商業者による物資流通の展開も大きく変容してきている。
本発表では首都ウランバートルに次ぐ規模であるエルデネトとダルハンの二地方都市、およびダルハン周辺のホンゴルとフトゥルの二村落を取り上げ、その商業と物資流通の展開を示した。
二地方都市においては、その物資は主として首都ウランバートルから各商業者自身によって仕入れられ都市内に持ち込まれている傾向が読み取れた。また二村落の商業者は、近隣する地方都市であるダルハンへ少量ずつ多頻度で仕入れを行う一方で、首都へも仕入れに向かっていることが明らかになった。ここに物資流通において「首都―地方都市―周辺村落」という基本構造が浮かび上がるが、これは単に段階的に物資が流れているというものではなく、従来の商習慣の継続と卸売、小売、運輸などの分業の未分化から、地方の商業においては首都が中心的な物資調達先として圧倒的な優位性をもっていることが指摘できる。この「ねじれ」は現代モンゴルの地方における商業、物資流通の実態を表しているといえよう。