抄録
亜熱帯地域に属する台湾では,これまで高度差を利用することによって,日本品種のナシ栽培が行われてきたが,1970年代後半に高接ぎによる栽培方法が確立すると,海抜高度の低い地域でも日本品種のナシの栽培が可能になった.本研究では,ナシ穂木の供給地として重要な日本との関係に着目しながら,高接ぎナシ栽培の発展過程と生産現場の実態を明らかにし,WTO加盟後の高接ぎナシ産業の影響について検討した.1980年以降,東勢を中心とする地域で商業的高接ぎナシ栽培が盛んに行われるようになり,生産された高接ぎナシは,高値で取引されていた.生産者の高接ぎナシ栽培への需要が高まると,高接ぎナシ栽培に必要なナシ穂木の入手が困難になり,1988年から日本のナシ穂木が輸入されるようになった.現在では,高接ぎナシ栽培に必要なナシ穂木の約半分を日本に依存している.生産面では,栽培に手間と人手を必要とするため,労働力確保や生産コストが高いといった問題を抱えている.WTO加盟後,日本や韓国から東洋ナシの輸入量が急増しているが,高接ぎナシの生産時期は,これらの国に比べ約2カ月早いため,国内市場において直接の影響は考えにくい.ただし,東洋ナシの輸入が集中する9月以降出荷されるナシは,輸入ナシとの競争を強いられるため,今後,高接ぎナシ栽培と生産者の販売戦略に変化が現れることも考えられる.