人文地理学会大会 研究発表要旨
2007年 人文地理学会大会
セッションID: 303
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第3会場
在日外資系企業の外国人マネジャーのパフォーマンスと立地選好
―東京-横浜と大阪-神戸の事例―
*シュルンツェ ロルフ
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抄録
国際的マネジャーの集中と拡散 地理学においても経営の問題が取り上げられることが多くなってきている。Thrift (2000)によれば、"fast subjects"が知識の集積するビジネスコミュニティのあるグローバル都市ネットワークをつないでいる。国際的マネジャーの消費やライフスタイルはグローバル都市において明確なパターンを持っている(Sassen 2001)。Jones (2002)はSassenのグローバル都市の概念は認識論的範囲が狭すぎると批判し、多国籍間のビジネス活動における権力とコントロールはもっと空間的拡散の面から理解するべきだと述べている。 そのような視点で見ると、前述したネットワークにおける経営的コミュニケーションのつながりはビジネスの成功にとって大変重要であるといえる。誰が、どこで、異文化コミュニケーションのプロセスにおいてシナジーを創出できるのか。国際的ビジネスを行う立地の役割を考えるためには、国際的マネジャーの成功方式と立地選好を詳細に検証することが必要だと考える。 方法論 本研究のため、マネジャーの経営面でのパフォーマンスと立地選好を組み合わせる分析フレームワークを開発した。外国人マネジャー個人の立地選好がシナジー創出の可能性、ひいてはその立地における外資系企業のパフォーマンスにも直接関連している。ここでは分析方法として主体中心のアプローチを用いた。はじめに外国人マネジャーのワーキングスタイルとライフスタイルから多文化の職場におけるシナジー創出の可能性を評価した。次にコンジョイント分析を用いて立地選好を評価した。在日ドイツ商工会議所の名簿にある全141人の外国人マネジャーを対象に調査し、58人にインタビューを行うことができた。そのうち有効な43ケース(30%)を分析の対象とした。 結果 立地選好 東京・横浜という第一のグローバル都市では、外国人マネジャーの人的資源に対するニーズが明らかに高かった。適応能力が低い外国人マネジャーは適応能力が高いマネジャーに比べて優秀な人的資源へのアクセスを必要としている。一方、明確な戦略的意図を持つマネジャーは成功のために企業内での協力を好む。したがって、国際的マネジャーのタイプによってシナジーの可能性も異なると考えることができる。 . パフォーマンス 分析から、外国人マネジャーは2タイプに分類された。1つはグローバル経営のスキルを持っているが、現地の仕事環境や生活環境に埋め込まれているとは言えないタイプで、これを海外派遣マネジャーと呼ぶ。もうひとつは社会的に埋め込まれており現地、つまり日本の規範や価値観に対するセンシティビティを持つタイプで、こちらをハイブリッドマネジャーと呼ぶ。ハイブリッドマネジャーは文化適応のスキルが高く、現地のビジネス知識も十分持っている。2タイプは適応、発見、センシティビティの項目で明らかな違いが見られた(Phi 0.408 Sig. 0.008, Phi 0.675 Sig. 0.000, and Phi 0.476 Sig. 0.002)。ハイブリッドマネジャーは海外派遣マネジャーと比べて現地の職場環境やビジネス環境に適応している傾向が強く、彼らのライフスタイルは外国人マネジャーが作るコミュニティへの依存度が低い。何か発見したいという気持ちが強く、プライベートにおいても文化的問題に対するセンシティビティが強い。また、適切な異文化コミュニケーションのために必要な知識も持っている。これらにより、海外派遣マネジャーとハイブリッドマネジャーの文化変容の程度は明らかに違うということが検証された(Phi 0.659 Sig. 0.000)。 さらに、東京-横浜の外国人マネジャーと比較して大阪-神戸の外国人マネジャーの文化変容の程度はわずかながら強いことも検証できた(Phi 0.314 Sig. 0.039)。この結果から、大阪-神戸のビジネス環境の方が従来の日本的な面が多く残っていると考えられる。あるいは、東京-横浜の方がグローバル化プロセスの影響を強く受けているということもできる。海外派遣マネジャーは第一のグローバル都市、東京-横浜で働く方を好む。彼らは文化的には現地に埋め込まれないままであるが、外国人ビジネスコミュニティにある知識豊富なネットワークを利用することができる。多文化の職場におけるシナジー創出の可能性は、海外派遣マネジャーよりハイブリッドマネジャーの方が高い(Phi 0.579 Sig. 0.000)。ハイブリッドマネジャーは文化変容が比較的進んでいることにより、自らの戦略的意図をうまく実践することができている。 本研究報告は、平成17・18年度日本学術振興会科学研究費補助金による基盤研究(C)「外国人経営者の活動空間と意思決定に関する研究」(課題番号:17520548)に基づく研究成果の一部である。
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© 2007 人文地理学会
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