人文地理学会大会 研究発表要旨
2009年 人文地理学会大会
セッションID: 210
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第2会場
松本盆地における山麓集落の地域防災力
*山下 亜紀郎
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抄録

 本研究では,長野県の松本盆地を対象に,関連自治体の防災施策について調査するとともに,山麓集落の社会特性をGIS(地理情報システム)を用いたデータ解析により明らかにすることを目的とする。
 松本市の自主防災組織は各町会ごとに存在し,昭和57年設立のものがもっとも古いが,現時点で未結成の町会もある。平成18年に「松本市地域福祉計画」が策定されたが,その中でも自主防災組織の活性化が盛り込まれており,福祉と防災が一体となったまちづくりを推進している。自主防災組織活性化に向けた取り組みとしては,平成16~18年にかけて,城北地区(市街地),本郷地区(浅間方面),里山辺地区(山間地)の3地区において,先進事例創出事業(市民意識調査やリーダー研修会,要援護者に配慮し,福祉と連携した減災活動の推進)を実施してきた。平成18年からはさらに,安原地区(市街地),芳川地区(郊外住宅地),四賀地区(旧四賀村)の3地区で各6回の事例事業(地域防災力の強化を図る事業)を実施した。平成19年からは,事例地区をさらに6つ増やした。各地区には地域支援プロジェクトチームが存在し,総合防災課,福祉課,健康づくり課の本庁職員の各地区担当が横断的に連携し,1地区あたり10人程度で構成されている。
 安曇野市は,平成17年10月に旧豊科町・穂高町・三郷村・堀金村・明科町の5町村が合併して誕生した。安曇野市には,要援護者(独居老人や障害者)支援に関する情報を掲載した災害時住民支え合いマップが,各行政区で作成,保管されている。市内83の行政区のうち30は既に作成済み(市へ提出済み)であり,全体の5~6割くらいが既に作成に着手している。緊急時の連絡手段としての防災無線は,トランシーバー型の双方向通信可能なものが,平成23年までに市役所と市内に180ある避難場所全てに設置予定である。同報型としては,すでに市内の全戸に音声受信機が設置されている。屋外スピーカーも市内70箇所に設置されている。自主防災組織は,83の行政区のうち75行政区で設置されている。毎年1回防災訓練を実施したり,防災資機材の備蓄もしている。自主防災組織がもっとも早く設置されたのは豊科地区で,10年以上前である。一方,いまだ設置が進んでいないのは三郷地区である。安曇野市は過去に大きな災害に見舞われた歴史がなく,地区によって防災意識には温度差がある。住民の中には,災害時には市役所や警察・消防・自衛隊などの公的機関がすぐに救助に来てくれると思っている人もいて,行政に依存している傾向もみられる。
 朝日村は松本盆地の南西部,鎖川上流域の谷あいに位置する人口約5,000の村である。朝日村では,平成17年1月に朝日村自主防災組織村民用防災マニュアルを作成した。それに合わせて村内5つの行政区に自主防災会を組織した。行政区の区長(任期2年)が自主防災会の会長を兼ねている。自主防災会の下に各地区ごとの防災部会が置かれており,防災部会の中に消火班,救護班,連絡班などがある。平成17年からは各自主防災会が主催して避難訓練や要援護者の確認などを実施している。要援護者については,お助けマップとお助け台帳を自主防災会で作成・保管し,把握している。その他,自主防災会では防災資機材の購入も行っている。防災無線については,戸別受信機を平成21年4月から全戸に設置した。これと並行して,屋外スピーカーも村内35箇所に設置した。そのうち13基には,親局への通話機能も付いている。
 社会特性の分析事例として,女鳥羽川上流域の松本市稲倉地区と三才山地区,薄川上流域の松本市里山辺地区と入山辺地区(写真1),鎖川上流域の朝日村古見地区,小野沢地区,西洗馬地区,針尾地区について取り上げる。表1に事例地区の高齢人口と高齢世帯の状況を一覧化した。それによると,市(村)全体の平均と比べて,事例とした山麓集落で相対的に高齢化がより進展している様子がうかがえるが,里山辺地区と古見地区はそれほどでもない。稲倉と三才山,里山辺と入山辺を比較すると,それぞれより上流域に位置する三才山と入山辺の方が,高齢人口率,世帯率ともに高い。朝日村の4地区では,総人口の少ない地区ほど高齢化が進展していることが分かる。
 結論としては,松本盆地の各自治体では,災害時において高齢者や障害者などの要援護者の避難を支援する施策の整備が行われている。しかし,過去に大きな災害に見舞われたことがないこともあって,地区によって防災意識や取り組みには温度差がみられる。特に山麓集落は,地域社会自体が脆弱化しつつある事例もみられ,行政も住民もより重点的,積極的に地域防災力向上に努める必要があろう。

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