人文地理学会大会 研究発表要旨
2009年 人文地理学会大会
セッションID: 307
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第3会場
東京大都市圏における職業階層変数の空間的パターンとその変化
*小泉 諒
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抄録

 東京大都市圏の空間構造とその変化については,都市地理学でも福原(1977)や富田・河野(1990)など,1980年代までを対象にした研究が取り組まれてきた.1990年代以降の動向については,むしろ都市社会学で研究が蓄積されており,社会地図や地域区分など地理学的な手法を用いながら,おもに「世界都市論」や「階層分極化」の視点から取り組まれている.たとえば,1975年から1990年までの東京圏を対象に,各種指標を地図化した倉沢・浅川(2004)は,従来はセクター状に分布していた社会階層が,同心円構造を明確化する方向に変容していると指摘した.1990年と2000年の国勢調査結果を分析した浅川(2006)は,外周部でのブルーカラーベルトの形成によってその傾向が強まっていることを確認し,その背景には,都心からの距離による住宅地の序列化と,経済的合理性を徹底した土地利用の追求があるとしている.
 しかしながら,これらの研究のほとんどが市区町村単位のデータを用いており,空間的パターンの把握については厳密さに欠けるところがある.また,1990年以降の東京大都市圏の人口動態については,都市地理学でも研究が進められており,郊外化の終焉や都心回帰の動きが指摘されている(富田2004, 江崎2006, 長沼ほか2006, 川口2007)が,そうした変化との関連性は明らかになっていない.そこで本研究では,1995年と2005年の地域メッシュ統計を用いて,職業階層からみた東京大都市圏の空間的パターンと変化を厳密に捉え直すとともに,人口動態との関連でその背景を探ることを目的とする.
 本研究では,前述の社会学者の主要な論点とされたホワイトカラー率とブルーカラー率を採用する.分析にあたっては,可変単位地区問題を検討するため,先行研究の多くが採用してきた市区町村単位と地域メッシュ単位とで分析結果を比較する.また,空間的なパターンを客観的に把握するために,隣接関係で重み付けした近傍指標による空間的自己相関指標(ローカル・モラン統計量)を用いる.
 1995年と2005年における職業階層変数の空間的分布パターンを分析したところ,両年次で市町村単位では,東京都心から南西方向と北東方向に広がるホワイトカラーベルトと,中川低地沿いと外周部に延びるブルーカラーベルトが見出された.しかしメッシュ単位での結果は,東京23区に相当する15km圏内はセクター状であるが,それ以遠では鉄道沿いのホワイトカラーベルトとその間に延びるブルーカラーベルトが交互に現れる放射状のパターンがみられた.
 全体的な分布傾向を計量的に捉えるために,二時点におけるモランのI統計量を比較すると,市町村単位では,職業階層からみた分布の偏りは拡大したが,これをメッシュ単位でみると,やや平準化したと示された.このように,1995年から2005年にかけての職業階層からみた住み分けの変化は,単位地区の設定によって異なる傾向が現れる.
 二時点での各比率の変化の空間的パターンを分析すると,市町村単位とメッシュ単位で異なる傾向がみられた.ホワイトカラー率の変化は,市町村単位では都心部で上昇し,郊外で変化が小さい同心円パターンとなる.しかしメッシュ単位では,15km圏内では都心部ほど増加が顕著な同心円パターンであるが,15km以遠では鉄道沿いに増加地帯が延びる放射状パターンとなる.こうしたメッシュ単位の変化の背景について,1997年と2006年における国土数値情報の土地利用割合から検討したところ,ホワイトカラー率の上昇が大きいメッシュは,大規模な住宅地開発が行われた地域であることがわかった.
 以上の結果から,市町村単位のデータから得られる空間的パターンは,集計単位を細分化してメッシュ単位で分析し直すと,やや異なる結果が得られることが明らかになった.とりわけ東京大都市圏の場合,東京23区に相当する15km圏とその外側では,異なる空間的パターンが現れる点が特徴的である.これは市街地の形成時期や産業構成の違いによるものと考えられる.
 本研究でとりあげた社会経済的地位を表す職業構成については,市区町村単位のデータについては倉沢・浅川(2004)や浅川(2006)がいうようなセクターパターンから同心円パターンへの変化がある程度認められた.メッシュ単位での分析でも,東京都心から15km圏内と外周部については,これと同様の傾向が確認されたが,これは東京都心部での住宅供給の増加によるホワイトカラー層の人口回帰を反映したものと考えられる.しかし,15~30km圏については,鉄道路線に沿った放射状パターンがみられ,鉄道からの距離による職業階層の違いが強まってきている.これは,市区町村単位での分析では見いだせなかった傾向で,郊外住宅地の多様化と分極化が同時進行していることを示唆している.

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