人文地理学会大会 研究発表要旨
2009年 人文地理学会大会
セッションID: 103
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第1会場
『江見農書』の耕作技術の地域性
*有薗 正一郎
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キーワード: 農書, 江見, 近世, 耕作技術, 地域性
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抄録

(1)『江見農書』の著作地と著作年・・・『江見農書』には著作者と著作地と著作年が記述されていない。『江見農書』には「当国江見」のほか、「芸州」「伯州赤碕」と、中国地方の地名が記載されている。「江見」地名は中国地方では美作国英田郡と伯耆国で拾えるので、「江見」は美作国英田郡江見である。『江見農書』に挟まれている別紙の耕作暦中の2年目に申年と記載され、またこの年は6・7・閏8・10月が小(29日)の月であった。これらの条件を満たすのは1824(文政7)年だけである。したがって、『江見農書』は1823-24(文政6-7)に著作されたと推定した。 (2)美作国江見の地理・・・江見は美作国東端の盆地に立地する集落である。近世の江見は美作国を東西に通る因幡往来の宿場であり、近世には新たな農耕技術が真っ先に伝わる好条件を持っていた。 (3)『江見農書』の耕作技術の地域性・・・『江見農書』は有用樹10種類の育生技術から記述を始めており、これが中国山地中の盆地に立地する江見の性格を説明している。『江見農書』はイネとワタ株の雌雄判別法を記述している。『江見農書』は、雌イネは穂軸最下段の枝が2本あり、雌ワタは幼株の時に葉が対生すると記述する。これは『農業余話』『草木撰種録』(いずれも1828年)の雌雄判別法と同じであり、『江見農書』は農作物の雌雄説が美作国まで普及していたことを示す史料である。

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