抄録
近年の日本の農山村の状況をみてみると,従来の国家主導型のものに代わって,地域間の関係性の構築を通じた地域の発展の可能性が模索されている。本報告で紹介する福島県会津地方にある昭和村では,こうした関係性が村民と都会からやって来た若い女性たちとの間で構築され,また地域の発展に繋がっている点でユニークな事例である。昭和村では村独自の物産である「からむし 織」の後継者(織姫)育成と交流人口の増加を目的に,1994年から「体験織姫制度事業」(以下「織姫制度」)が実施されている。現在までに88名の女性が織姫となっており,うち23名が昭和村に残って生活している。彼女たちは独自にからむし織を続けながら,新しく来た織姫たちに技術指導をしたり,村に設立された博物館の職員としてからむしの調査や普及活動に携わったり,さらには地元の男性と結婚し夫の家族と同居しながら何人もの子どもを育てている女性も数名いる。
本報告では日本におけるトランスローカルな動きを検討するため,この昭和村の織姫制度を取りあげその可能性と課題について検討したい。