抄録
この研究では,滋賀県内に位置する大学を対象として,その通学圏に影響を与える要素は何かということについて考察を行った。とりわけ,公共交通機関が通学に果たす役割を解明することを目的としている。どれぐらいの地域から学生が通学しているかというデータ上の制約があることから,通学可能範囲を各大学で割り出し,考察する。本研究における通学可能範囲とは,午前7時に自宅最寄駅を出発して,公共交通機関を使って大学に始業時間に到達できる範囲と定義した。この研究では,大学の最寄駅から大学までの所要時間,大学最寄駅の特性,自宅最寄駅を出発する時刻,大学の始業時間に焦点を当てて考察を行った。
滋賀県を対象として研究する理由は,滋賀県が京阪神大都市圏と中京大都市圏,両方の大都市圏が接していることにある。県の東西で通学可能範囲の広狭やどちらの大都市圏から学生を集めているかに差が見られるのではないかと考えられるためである。
研究対象大学は短期大学も含め,県内の大学12校を対象としている。多くが単科大学であり,学生数の少ない大学が卓越する。
大学の最寄駅から大学までの所要時間は短いほど,通学可能範囲も広がる。大学最寄駅から徒歩の場合とスクールバスを使う場合と比較を行った。バスを使えば,徒歩の場合と比べて短縮した時間だけ駅に遅く着いてもよい。実際に,大学までの距離を短くすることはできないので,複数の大学でスクールバスを導入するなどして学生の便宜が図られているが,通学可能範囲を広げるという効果があったことが確認できた。また,スクールバス自体が始業時間に合わせて運行されていることも通学可能範囲の拡大に大きな役目を持つ。
大学最寄駅に速達列車が停車するかどうかということで通学可能範囲に大きな影響は生じなかった。通学時間帯は運行本数も多く,乗換が行いやすいということがその理由として考えられる。速達列車の運行が少ない地域では,列車の運行本数自体も少なく,通学可能範囲を効果的に広げるには至っていない。逆に自宅最寄駅が速達列車の停車しない駅であっても周辺の駅で乗換をすることで,速達列車が停車する駅と同じくらいの時間で大学に到達できることがわかった。
自宅最寄駅を出発する時刻によって通学可能範囲に変化が生じるのか考察を行った。自宅最寄駅を午前6時と午前7時に出発する場合の比較を行った。時刻が早ければ早いほど通学可能範囲が広がるかのように思われた。実際は,午前6時台は公共交通機関の本数が午前7時台と比べて少ないこと,速達列車も少ないことから,特に自宅の位置が大都市圏縁辺部の場合はあまり通学可能範囲を広げる結果にはつながらなかった。
研究対象大学の約半数が始業時間を午前9時に設定している中で,長浜バイオ大学は,始業時間が研究対象大学の中では最も遅い午前9時30分に設定されている。本研究において,通学可能範囲を始業時間に間に合う範囲と定めているため,始業時間が大きな影響を与えるのではないかと思われた。最寄駅が同じで,駅からの所要時間にも大きく差がない滋賀文教短期大学は,午前9時5分に始業時間が定められている。両大学を比較すると,通学可能範囲は長浜バイオ大学の方が拡大している。長浜バイオ大学は遠くから通う学生に対する配慮して始業時間の設定していることが,後に聞き取り調査によって確認できた。同大学の大学案内には始業時間に間に合う一番遅い電車の時刻が掲載されている。県内の国立大学は始業時間を午前8時50分に設定しているため,通学可能範囲は比較的狭い。国立大学は私立大学に比べ,学生獲得に向けての取り組みが低調であるといえよう。
通学可能範囲を様々な観点から考察したが,通学可能範囲に最も大きな影響を与えたのは始業時間であった。滋賀県は,通学可能範囲さえ広がっていれば,京阪神大都市圏,中京大都市圏の両方から通学することが出来る。そのことが滋賀県にキャンパス新設などが相次ぐ一因とも考えられる。課題としては自動車通学を許可している大学があり,実情と合わない可能性が考えられること,電車の運行形態の変更など時代による状況変化の考察が出来なかったことがある。