人文地理学会大会 研究発表要旨
2010年 人文地理学会大会
セッションID: 306
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第3会場
2000年以降の京都府における市区町村人口の変動過程
人口の自然増加と社会増加を用いた類型化による分析
*山神 達也
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抄録

はじめに:日本社会では少子高齢化が進展し,人口減少期に突入した。今後の人口減少社会をめぐっては様々な議論が展開されているが,そこでは,都市部から農村部までを含めた日本全体の居住地域体系の変化に関する議論は少ない。本研究では,2000年以降の京都府を対象として,自然増加と社会増加の関係に着目した類型化を通して,市区町村人口の変化の過程を明らかにしていく。都市部から農村部まで含む京都府を事例とすることで,日本全体の居住地域体系を検討する基礎としたい。本研究のデータは『住民基本台帳人口要覧』各年版から得た。

人口変化の類型化:本研究では,市区町村人口の変化を類型化する際,自然・社会動態相関図を用いる。これは,自然増加を縦軸に,社会増加を横軸にとって地域人口の変化を直角座標で示すものである。人口の変化は8つに類型化され,A~Dは人口増加を,E~Hは人口減少を示す。また,B・Cは自然増加と純流入の両者による人口増加を示すのに対し,F・Gは自然減少と純流出の両者による人口減少を示す。加えて,人口変化の主因となるのは,C・D・G・Hは純移動であるのに対し,A・B・E・Fは自然増加となる。

市区町村の人口変化の類型:はじめに,京都府全体の変化を確認する。2000~2009年度の10年間で,自然増加の6,394人に対して純流出が35,627人であり,類型はHになる。これを年度単位でみると,純流出は継続するものの,2005年度から自然減少を記録し始めた。それに伴い,類型は2004年度まではHだったが,2005年度以降はGに変化した。次に,京都府下の各市区町村の人口変化を類型化した。

市区町村人口の変動過程:地域人口は,出生数が死亡数を上回れば自然増加となるが,これはその地域の年齢構成との密接に関連し,出産・子育て世帯比率が高いと自然増加を,高齢者比率が高いと自然減少を記録する傾向が強い。また,地域の年齢構成に差をもたらすのは,多くの場合,これまでの年齢選択的な人口移動が積み重なった結果である。このうち,若年層では就学・雇用機会との関連が,出産・子育て世帯では住宅事情との関連が強いことが知られている。
以上を踏まえて,各市区町村の動向を検討する。人口の郊外分散のもとで高齢化した都心部では人口の自然減少が続いたが,マンション供給の増加に伴う純流入,すなわち人口の都心回帰現象によってDとなった。その周辺では,純流出を主因として人口減少を記録する地区が広がるが,これまでに宅地を求めて流入した人口によって高齢者比率は低く,自然増加を記録するHが多い。その中で,大学が多く立地する地区では,出生数が少ないために自然減少を記録してGとなる。また,京都と大阪を結ぶ鉄道沿線では,純流出が小さく,人口増加を記録するAがみられる。そして,都市開発の最前線として大幅な人口流入を記録した都市圏外縁部にCがある。一方,過疎化の進展の中で若年層の流出に伴い高齢化した市町村では,自然減少が大きく,かつ純流出も継続するFやGがある。その中で,地域の中心として一定の雇用を提供してきた福知山市や舞鶴市では,経済情勢の悪化に伴い人口の減少幅が拡大し,HからGに転じた。
このような市区町村人口の変動過程は,戦後の動向の延長として理解できる部分が多い。具体的には,戦後の日本では都市人口が増大し,人口の郊外分散が進展したが,その延長として,都市開発の最前線が都心部から離れて存在する。また,都心部からその最前線までの間では,出産・子育て世帯が多数流入してきた郊外住宅地が広がり,高齢人口比率が低く,自然増加が継続している。次に,過疎化の進行する農村部では,若年層の流出が継続し,また高齢人口比率が高いことから,自然減少も記録している。一方,新たな動向として,人口の都心回帰現象がある。また,過疎地域に囲まれつつも人口を維持してきた中小都市で人口減少が大きくなった点も,地方経済の疲弊を示す事例として重要であろう。
以上の結果を通し,地域人口の変化は,地域経済と住宅供給における歴史と現況,そしてそれらの結果としての年齢構成が相互に作用したものとして理解することができる。しかし,今後の人口減少社会でも同様の理解が可能なのか,それとも人口減少期特有の状況が出現するのか,注意深く見守る必要がある。また,高齢化のさらなる進展,世帯の多様化やそれに伴う居住地選択の多様化,所得格差の拡大などと地域人口との関連を検証する必要がある。地域人口をめぐる研究課題は多い。

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© 2010 人文地理学会
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