人文地理学会大会 研究発表要旨
2010年 人文地理学会大会
セッションID: 404
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第4会場
ハイデルベルク市における中心商業地区の変容
*川田 力
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抄録

 日本の多くの地方中小都市においては、市街地中心部に旧来から立地する中心商業地区の衰退が著しい。これに対して、ドイツでは地方中小都市においても中心商業地区の商業機能が維持されている例が多い。この要因としては、小規模小売店の保護に閉店法が一定の役割を果たしてきたとされるが、近年では規制緩和により営業時間の延長が進み、小規模小売店保護に対する閉店法の役割は縮小してきている。一方、ドイツにおいては地方自治体が都市計画に対する実質的権限をかなりの程度有しており、これを利用した都市マネジメントが、商業地区の浮沈に大きな影響力を持っているといえる。そこで、本研究では、ドイツ南西部に位置するハイデルベルク市を対象として、近年の中心商業地区の変容について検討した。ハイデルベルク市は、1997年に全市域にわたる商業振興構想を策定した。この構想では、都心を頂点とする商業中心地の階層構造を重視し、上位中心都市にふさわしい商業の質の確保を目指して市内の小売業を強化する方針がとられた。具体的には、商品を都心型商品と非都心型商品に区分し、都心型商品を販売する小売店の新規進出を市街地核に限定することにより、商業機能の郊外化を抑制することとされた。また、市域全体で約4万5000平米の売場面積の拡大が提案され、商品の質を向上させることにより、中心市街地の魅力をより向上させることが計画された。2006年のハイデルベルク市の商業調査によると、1997~2006年に市域全体で店舗数はわずかに減少したものの売場面積は約1万3500平米拡大し、販売額も7.7%増加した。こうしたことから、ハイデルベルク市の商業機能は維持されてきたとみることができる。しかし、当該期間のハイデルベルク市の購買力の伸びは22.0%であったと算出されていることから、ハイデルベルク市の小売吸引力の低下が指摘されている。また、ハイデルベルク市民の市内購買率は、最寄品、買回品ともに約80%に留まっており、ドイツ国内の同規模都市に比して市内購買率が低いことも指摘されている。ハイデルベルク市の中心商業地区は、ハウプト・シュトラーセ周辺とビスマルク広場を中心とした地区で構成される。中心商業地区はハイデルベルク市全体の中でみると、店舗数・売場面積・販売額ともに市内の約3割を占めている。核店舗としては百貨店がビスマルク広場およびハウプト・シュトラーセに各1店立地しているが、店舗の約80%が100平米以下となっている。ハイデルベルク市中心商業地区においては食料品販売店の構成比が15.4%と市内他商業地区に比して大幅に低いことや、衣料品店の販売額が地区内販売額の58.8%を占めていることなどに、買回品を中心として、市全域および市外から集客可能な店舗が集積するAランク商業地区の特徴が確認できる。近年における中心商業地区の最も大きな変化は、1997~2006年に販売額が-17.8%と大幅に減少したことであり、ハイデルベルク市全体で当該期間に販売額が増加したのと対照的である。2006年時点での空店舗は約5%となっているが、それらは地区内東部の副次的街路沿いに集中しており、ハウプト・シュトラーセ、および、ビスマルクプラッツでは空店舗がみられない。しかしながら、テナントの更新は頻繁に行われており、中小都市としては格段に高いとされるテナント料に見合う収益を上げられない店舗の撤退と、高い知名度に吸引された新規出店が繰り返されている。こうした結果、近年、支店率の上昇が顕著で、ハウプト・シュトラーセにおいては、支店率が68.1%(2009)に達している。ハイデルベルク市においては、中心商業地区における販売額の減少という事態を受け、2008年以降、商業振興策の見直しが進められている。これは、1997年の商業振興構想で掲げた売場面積の拡大を市内のどの地区で実現するかについて再検討を伴う課題と位置づけられる。これまで、売場面積の拡大については4地区が候補地とされてきた。当初は都市構造的見地からネッカー川北部地区が有力視されていたが、その後、ハイデルベルク駅南地区における大型再開発プロジェクト「バーンシュタット」の実施が確定したため、ここに高次商業機能を併設する案が最有力化した。しかしながら、2006年の商業調査の結果が明らかになると、中心商業地区の強化が中心的政策課題となった。ハイデルベルク市では、住民参加のワークショップを開催するなどして、中心商業地区強化のための具体的計画立案を進めており、現時点ではハウプト・シュトラーセの中央部付近に大型の衣料品専門店を誘致する計画の実現可能性が模索されている。

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