人文地理学会大会 研究発表要旨
2011年 人文地理学会大会
セッションID: 305
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第3会場
自治体間の交流事業が災害救援活動に果たす役割
*山田 浩久
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抄録
 東日本大震災では,地震とはまったく関係ない交流事業で関係を深めていた自治体同士が連携しあい,非被災自治体からの救援隊が被災自治体に派遣された。各自治体のこのような自発的行為は,被災地に対する迅速な支援に結びついたことは明らかであり,今後の防災計画にも大きな影響を及ぼすと考えられる。本研究では,より効果的で即時性の高い救援活動を行うための指針を提案することを目的とし,仙山交流圏を構成する山形県側自治体がその交流事業を基礎に行った救援活動の経緯を整理することによって,平常時の交流事業が緊急時の救援活動に果たした役割を具体的に明らかにした。分析の結果は以下のように要約される。
 仙台市を中核とする仙台地域の人口はおよそ149万人であるのに対し,山形市を中核とする村山地域の人口は56万人にすぎない。仙台市の卓越は絶対的であり,山形市はそれに対抗できるほどの中心地性を有していないと言える。仙台地域と村山地域の交流は,都市的活動の相互交流というよりは,仙台市の都市的魅力と村山地域の農村的魅力を互いに享受し合うような余暇活動の提案か,若しくは,臨海部の環境と林間部の環境がそれぞれに生み出す物産の交換や文化の紹介によって成立すると考えられる。
 東日本大震災後,仙山交流圏で交流事業を展開していた山形県側の8市町は,いずれも交流事業の相手先市町村に救援隊を派遣した。一方,従前に交流関係を確立していなかった自治体は,山形市をはじめとして複数の自治体に救援隊を派遣した。これは均質的な支援を目指したものと思われるが,情報が錯綜する現地では救援活動の配分が難しく,総体的なルールの欠如が問題になった。しかし,山形市のように影響力が広域にわたる中規模以上の都市においては,広域的な救援活動が期待されており,限定的な救援活動はできなかったと考えられる。このような都市では,地区内コミュニティ規模で人的ネットワークが形成される親密な交流事業を市全体で進めることは逆に難しい。換言すれば,人口10万人未満の小規模都市であるからこそ,平常時の交流活動を活かした集中型の即時的救援活動が可能であると言うことができる。
 村山地域の自治体の中で最も積極的に救援活動を行なった上山市は,1981年に宮城県名取市と姉妹都市協定を締結し交流深めていたが,2011年3月の時点では災害時の相互支援協定は締結されていなかった。しかし,自市内の被害が比較的軽微だったこともあり,震災翌日の3月12日には救援活動を名取市に集中させることを決定し,13日には職員2名と共に給水車を派遣した。市内の被災状況が掌握され市民の安全確保が確認された14日には上山市名取市救援対策本部が設置され,本格的な救援活動が開始された。名取市に対する集中的な救援活動の決定には,交流事業の一つとして進められた議員交流において議員出身同士の両市市長が顔馴染みになっていたことや,事業を通じて個人的な親交を深めていた職員が多く存在していたことが大きく影響した。
 交流事業に基づく自治体の自発的な救援活動が被災者の救援に効果的に作用することは明らかであるが,同時に,今後に向けた課題も指摘できる。交流事業の本来の目的は互いの地域に対する理解を深めることであり,今回の震災では,それが救援先の早期決定や派遣職員の熱意に反映された。しかし,交流人口の増加が,常住人口減少による地域内経済の低迷を補うといった観点から進められる交流事業では,効率性や収益性が重視され,地域理解や人的ネットワークの形成を目的とするイベントが縮小される傾向にある。災害救援のための交流事業となってしまっては本末転倒であるが,短期的な経済収益を優先するイベントが林立する交流事業の中で,地域の相互理解を目的とする地道な活動をいかに継続させていくかといった課題への対応が求められる。
 また,自治体が行う救援活動は即時的で統制がとれているが,長期にわたる活動は期待できない。そのため,長期間の支援活動は専門のボランティア団体や個人の活動に任される。災害直後の救援活動を民間の支援活動に結びつけるのは,最初から現地に入っている自治体の役割であるが,今回の震災において,そのパイプ役を上手く果たした自治体は少ない。これは,直接的な救援活動に関しては用意していたものの,それを民間の支援活動にシフトしていく方策が確立していなかったことに原因があると思われる。今後は,公的支援から民間支援への段階的な移行方法を民間団体との連携によって考案していかなければならない。
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