人文地理学会大会 研究発表要旨
2011年 人文地理学会大会
セッションID: 309
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第3会場
首都圏における大規模工場の機能変化と地域産業政策の課題
-神奈川県内の東海道線沿線を事例として-
*鎌倉 夏来
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抄録

_I_〈SUP〉はじめに〈BR〉 〈SUP〉グローバル化や知識経済化の中で,首都圏近郊に古くから立地していた工場は,研究開発機能の高度化・集約化を図るなど,新たな変化を見せている。本報告では,首都圏工業地域の中でも神奈川県内の東海道線沿線地域を取り上げ,その地域的特徴を確認するとともに,企業の立地調整過程に着目しながら,沿線の主要大規模工場の機能変化が意味するところを明らかにする。また,新たな機能変化をふまえた地域産業政策の課題を検討することにしたい。〈BR〉 _II_〈SUP〉対象地域と分析方法〈BR〉 今回分析の対象とした地域は,神奈川県川崎市から平塚市までの東海道線沿線地域で,軌道の両側各1km以内を範囲とした。 〈SUP〉まず,1974年時点の従業員数100人以上の工場を抽出し,2010年時点の土地利用と比較して,変化の有無・内容を調べた。続いて従業員1,000人以上の大規模工場26工場を対象に,「社史」,「有価証券報告書」,「日経全文記事データベース」をもとに,立地経緯,製品内容や従業員数の変化,他の事業所との関係など,工場履歴を明らかにした。そのうちの主要な事業所については,研究開発機能を中心に,変化の要因や立地戦略上の位置づけなどに関する聞き取り調査を2010年9月~11月に行った。〈BR〉 _IV_〈SUP〉東海道線沿線工場の機能変化〈BR〉 〈SUP〉東海道線沿線の大規模工場は,都市化の進展による立地環境の変化によって,オフィスやマンション,商業施設に用途を転換させる工場が多い。しかしながら,横浜市戸塚区以西を中心に,存続している大規模工場も少なくない。〈BR〉   〈SUP〉存続している工場の特徴として,第1に官公庁・事業所向けの製造業が多いことがあげられる(住友電工,山武など)。中央省庁や企業の本社は都心に集中しており,本社の営業スタッフが顧客と話し合う際,技術者の同席が容易であるといった利点がある。第2に,食料品や化粧品など消費者向け製品をあげることができる(森永製菓,資生堂など)。首都圏市場への近接性を重視するとともに,工場見学などを通じた宣伝効果を強化してきている。〈BR〉 〈SUP〉ところで,大規模工場の中で製造機能のみで存続しているものは少なく,多くの工場が研究開発機能などを備え,それらを強化してきている。沿線主要工場の機能変化の過程を整理すると,次のような3つのタイプ, 1)製造機能と研究開発機能との近接性を重視しながら研究開発機能を強化したもの,2)異なる分野の研究開発者を1拠点に集め,シナジー効果を狙ったもの,3)顧客志向の研究開発拠点を新たに設けたもの,に分けることができる。〈BR〉 _V_〈SUP〉地域産業政策の課題〈BR〉 〈SUP〉神奈川県は,バブル経済崩壊後空洞化の進んだ同県の製造業の再生を図ることを目的として,2004年に「神奈川県産業集積促進方策(インベスト神奈川)」を策定した。図2はインベスト神奈川の実施状況を示している。この施設整備等助成制度は,特に大企業の本社や研究所の立地に対しての助成額の上限を高くしたことに特徴がある。その結果として,大企業20社22件からの申請があり,本研究で取り上げた日産自動車,武田薬品工業,山武,日本精工などはこの政策を利用して,県内での再投資を行っている。藤沢市などの基礎自治体においても,固定資産税や法人市民税といった税収確保を背景に,研究開発施設の新設を重視する傾向にある。このように,従来の誘致政策から,工場機能の高度化を支援する政策に重点を置き始めていることが指摘できる。〈BR〉 〈SUP〉しかしながらこれまでの政策では,個々の事業所の再投資の面ではある程度の成果があるものの,地域的な波及には多くの課題が残されている。中小企業への技術波及を進め,地域での雇用創出をどう図っていくか,研究開発拠点の強化に対応した都市環境整備をどのように進めていくかが,問題になっているのである。

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