抄録
I はじめに
日本における港湾は海上交通と陸上交通の結節点として重要な役割を果たしている。港湾の背後には後背圏が形成され,港湾を通過する貨物を生産あるいは消費する場として機能している(野澤 1978)。港湾に関する研究において,遠藤(1981)は清水港を例に,企業が港湾までの陸上輸送費などを考慮して利用する港湾を選択していることが,港湾の階層性を生み出し,清水港の後背地が横浜港や東京港の強い影響を受けていることを指摘した。
本発表では茨城港を事例に,東京湾に立地する諸港と比較していかなる優位性が存在するのか,各港区の取扱貨物の特徴や,茨城港を利用する企業の戦略に焦点を当て,北関東の物流における茨城港の港湾機能がいかに展開されているのかを明らかにする。
II 関東地方における海上物流の展開と茨城港の位置づけ
関東地方には,茨城,鹿島,木更津,千葉,東京,川崎,横浜,横須賀と8つの港湾がある。2009年における8港の貨物取扱量は輸出6,905万トン,輸入26,274万トン,移出11,672万トン,移入11,014万トンである。そのうち,貨物取扱量が最も多いのが千葉港で,輸出入,移出入を含めた総取扱量は14,490万トンに及び,全国的にみても大きな港湾のひとつである。関東地方の海上物流は,千葉港,東京港,川崎港,横浜港の東京湾岸に立地する港湾を中心に展開されており,コンテナ取扱い施設の規模が大きいこと,後背地への交通アクセスがよいことなどがその要因として指摘されている(峯 1996)。
茨城県は,2008年にそれまで重要港湾であった日立港,常陸那珂港,大洗港の3港を合併して茨城港を設置した。茨城県は,3港合併による茨城港のブランド力の向上を意図しており,また2011年に北関東自動車道が全線開通したことによって,栃木県,群馬県の内陸各県と茨城県を結んだ内陸交通と海上交通との利便性を強調している。しかし,茨城港ではコンテナ船による取扱貨物量が少ないのが特徴であり,スケールメリットを生かした海上輸送が困難である。その一方で,大型トラックを自走のまま積み込むことで,コンテナ貨物における荷降ろしの時間を短縮した,RO-RO船と呼ばれる形態の貨物取扱量は,関東の重要港湾の中で最も取扱量が多くその量は293万トンである。
III 茨城港における物流の動向
1.日立港区
日立港区は1957年に開港した茨城港で最も古く,かつ最も北側に位置する港で,4つの埠頭と17の公共岸壁を有している。そのうち,第1,2埠頭では石油製品や鉱産品などのいわゆるバラ貨物が扱われており,第4埠頭では倉庫機能を持つ物流センターが1990年に整備され,釧路港とのRO-RO船が運航されている。また第5埠頭では日立港開港以来,木材の移入港として機能してきたが,1990年代からその需要は少なくなり,現在では自動車の輸出入が行われている。
2.常陸那珂港区
常陸那珂港区は1998年に共用が開始された茨城港の中で最も新しい港で,2011年現在3つの埠頭と9つの岸壁が設けられている。茨城県は,常陸那珂港区を北関東における国際海上コンテナターミナルとして計画し,常陸那珂港区には大型コンテナ船が入港可能な岸壁や,コンテナの積み込みや荷降ろしに利用される大型のガントリークレーンなどが整備されている。しかし,コンテナ貨物による取扱量は茨城県の当初計画していた取扱量よりも少なく,2011年現在,北米向けの定期航路が月2便,韓国・中国との定期航路が週1便,国内では松山港と週1便の定期航路が開設されているのみである。
3.大洗港区
大洗港区は1985年に開港され,北海道とのカーフェリーが運行されており,2011年現在は苫小牧港との航路が週12便で運行している。大洗港区では2009年における船舶乗降人員数は2000年における乗降人員数と比較すると約半数にまで減少した。そのため,地元自治体は2006年に「日光・大洗クルーズ船誘致協議会」を設立し,内陸の観光地である日光との提携を進め,大洗港区周辺の振興を図っている。
IV 北関東の物流における茨城港の役割
茨城港が北関東の物流に果たす役割として,以下の2点が挙げられる。1点目は,北関東に立地する企業の港湾利用で,栃木県に立地する自動車企業や茨城県に立地する建設機械企業が輸出の拠点として茨城港を利用している。これらの企業による港湾利用は,茨城県や港湾の周辺自治体による企業誘致の成果でもあるが,北関東自動車道を利用することによって,東京湾に立地する港へ貨物を輸送するよりも低コストであると判断したことが大きい。2点目は,北海道との航路確立によるRO-RO船による貨物の流通である。特に釧路港と茨城港との航行時間は荷役作業も含めると24時間であることから,2隻で毎日運行することができるという利点がある。