抄録
本報告の目的は,日本における経済的周辺の一つである九州において、そのなかでの衰退的産業集積地域に立地し、かつイノベーティヴな活動をしている製造業中小企業に焦点を当てて、そうした地理的位置にもかかわらず何故イノベーティヴたりえているのかを解明することにある。<BR)
イノベーティヴな中小企業を同定するために、経済産業省中小企業庁(編)『明日の日本を支える元気なモノづくり中小企業300社』2006~2009年版を利用した。これに掲載された九州に立地する中小企業の中から福岡県以外に立地する企業を選び、約2時間のインタビュー依頼を受諾した企業を訪問して、各企業のイノベーション形成に至る詳細に関する聞き取りを代表取締役ないしこれに準ずる職位にある人に対して2006年および2009年から2011年にかけて行った。
本報告では、その中から佐賀県有田町に立地する機械メーカーとセラミックス電子部品メーカーの事例を紹介し、冒頭に提示した問題を考察する。有田町は、陶磁器の窯元、流通業者、支援機関が集中立地する産業集積地域であるが、九州の中では経済的周辺の地位にある。
本報告で紹介する2社のうち1社の起源はその産業集積と深く関係しているが、現在の地位はこれに見切りをつけた時点からの再スタートに由来する。もう1社も有田の窯元が用いる原料と同じ産地の原料を用いていたという点でこの産業集積地域と関連してはいた。しかし、電子部品企業としての歩みにおいて、地元の他企業との関係はほとんどない。
いずれも、独自開発のための知識創造の源泉は顧客のニーズに応えることにあった。1社の顧客は、近隣地域から次第に日本全国へと広がった。もう1社の場合、最初から600_km_以上離れた位置にある顧客企業からのニーズに応えることが重要だった。両社とも、独自開発した製品の市場が拡大するにあたって、遠隔地の企業による評価が重要な役割を果たした。いずれの会社にあっても、開発で重要な役割を果たした人物は、有田町で開発のための基礎的能力を獲得したというわけではない。
産業集積地域の中にあっても、これと無関係に中小企業が知識を創造し、イノベーションを実現することは可能である。その際の鍵は、地理的遠近に関係なく、顧客企業のニーズに応えることにある。各社の製品は次第に変化するが、経路依存性が認められる。