比較生理生化学
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総説
昆虫のナビゲーション戦略を支える記憶
弘中 満太郎
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2008 年 25 巻 2 号 p. 58-67

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抄録

  アリ類やハチ類によって代表される中心点採餌者は, 中心点となる巣と餌場との間を移動する。移動中の個体にとって巣と餌場は目的地であり, 彼らは目的地の間接的な情報を利用することで定位を完遂するナビゲーターである。昆虫が採餌において利用するナビゲーションシステムは, トレイルフェロモンに代表される経路追随システム, 移動方向と距離をベクトル積算する経路積算システム, ランドマークを記憶する地図基盤システムの3つに大別される。それぞれのシステムにおいて, 彼らは自身が作り出すcue(手がかり)や, 彼らの外環境に存在する種々のcueを利用している。最近の研究から, 外環境のcueを用いる昆虫のナビゲーションシステムでは, 空間情報の記憶が重要な役割を果たしていることが明らかになってきた。 空間情報の獲得, 保持, 再生及び統合といった記憶の特性は, 種や利用されるシステムによって大きく異なり, これはナビゲーターが必要とする記憶の機能が異なるためと考えられる。本総説では, 昆虫の間接的な情報を用いたナビゲーションシステムの多様性を紹介し, それぞれのシステムで必要となる空間情報の記憶に関する知見を概説する。

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© 2008 日本比較生理生化学会
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