比較生理生化学
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総説
バソプレシン/バソトシンの浸透圧調節作用からみた脊椎動物の環境適応と進化
今野 紀文
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2014 年 31 巻 2 号 p. 68-74

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抄録

脊椎動物にとって,身体に「水」を保持することは生命を維持する上で必要不可欠である。バソプレシン[vasopressin(VP)]/バソトシン[vasotocin(VT)]は,体内水分の喪失(脱水)に応答して脳下垂体後葉から放出され,腎臓において尿からの水再吸収を促進する抗利尿ホルモンとして働いている。この水を保持する作用は,V2受容体を介した水チャネル(AQP2)の発現促進によって発揮されるが,この仕組み(VP/VT-V2受容体-AQP2系)はこれまで両生類以降の動物群でしか見つかっておらず,原始的な両生類の陸上進出に伴って獲得されたと考えられてきた。しかし,最近,我々は両生類に最も近縁な魚類である肺魚にもこの仕組みが備わっていることを発見し,淡水中では機能しないが,夏眠と呼ばれる陸生化にともなって機能して,水の保持に働くことを明らかにした。また,肺魚と同じ肉鰭類のシーラカンスにも,この分子基盤が備わっていること,条鰭類や軟骨魚類のゲノムにはAQP2やAQP0p(四肢動物AQP2の祖先遺伝子)が存在していないことから,VP/VTによる抗利尿作用は原始肉鰭類を起源とし,魚類の水中から陸上への進出に重要な役割を果たしたことを示した。さらに,四肢動物とは系統が異なる条鰭類にもV2受容体が存在していることを発見し,その機能について調べた。本稿では, V2受容体を介したVP/VTの浸透圧調節作用が脊椎動物の進化や環境適応に果たした役割について紹介する。

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© 2014 日本比較生理生化学会
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