比較生理生化学
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総説
都市の夜は明るいか―ナミニクバエの場合
向井 歩多賀谷 純後藤 慎介沼田 英治
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2022 年 39 巻 1 号 p. 53-58

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抄録

人工照明の影響のため,郊外とは大きく異なる都市環境が昆虫の季節性に及ぼす影響を実証した研究は少ない。本稿では,ナミニクバエ休眠誘導に対する都市環境の影響を検証した事例を紹介する。温度を一定に保ち,秋の野外と同じように毎日2分ずつ明期が短縮する光周期で幼虫を飼育した場合,明期の短縮とともに休眠に入る個体の割合が増加した。ところが,同じ温度で,都市の屋外の光環境で飼育したところ,日長が短縮した秋にも休眠に入らない個体が観察された。これにより,休眠誘導は都市の夜の明るさによる負の影響を受けている可能性が示された。実験室内でさまざまな暗期照度を与えて飼育した場合,休眠誘導は0.01 lux 程度の弱い暗期照度でも阻害された。郊外と都市の野外でハエを飼育したところ,都市での休眠誘導は郊外に比べて3~4週間遅れた。さらに,住宅地に面した場所での飼育では,ほぼすべての個体が休眠に入らなかった。 秋の低温が人工照明による負の影響をある程度軽減すると考えられるが,都市の夜の強い光はナミニクバエの季節適応を攪乱した。

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© 2022 日本比較生理生化学会
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