2023 年 40 巻 3 号 p. 128-136
5億年以上前に,脊椎動物の共通祖先は4種類の錐体タイプによる4色型の昼間視と,桿体による薄明視を獲得した。これら視細胞にはそれぞれ独自の光シグナル伝達系が備わり,特徴的な細胞形態を示す。これらの特徴は生物種を超えて高度に保存されており,進化距離の離れた生物においても視細胞を同定することが可能である。その一方で,個々の生物種における視細胞の応答は,生息する光環境に応じて独自に調整されており,視細胞の種類数も劇的に変化している。本総説では,3種の脊椎動物(ゼブラフィッシュとハツカネズミとヒト)において,転写調節因子による視細胞の分化メカニズムを比較し,視細胞の種類が種間で相同であるかどうかを探究する。さらに,魚と哺乳類の共通祖先が保持していたであろう4つの錐体タイプの細胞分化ネットワークが,現生の哺乳類が備える2つの錐体タイプのネットワークへと進化的に移行した経緯を考察する。