ウニは古くから実験生物学の材料として重宝されてきた。特に,発生生物学や細胞生物学の分野においてはウニから発見された現象や分子メカニズムが生命科学の進歩に寄与した例は多い。しかしながら,こと神経科学の面においてはウニを材料とする研究者人口は非常に少なく,長らく分子的な情報もほとんど存在しない状況であった。そのため,個々の研究室から細々と形態的な報告がなされるだけで,神経研究はウニの研究業界の中でも主流とされる分野とは一線を画すものであった。一方,90年代後半から2000年代前半の10年間にかけて分子的なツールが整備されたことや,アメリカムラサキウニのゲノムプロジェクトに伴いウニの研究業界の中でも神経に着目した仕事が徐々に増加し,近年にかけてEvoDevoの観点からも注目領域のひとつとして発展しつつある。そこで本総説では,ウニ幼生の神経系に着目し,その形成過程と機能に関してこれまで発表された論文を紹介する。まず,本雑誌であまり馴染みのないウニに関してその進化系統,発生,研究の歴史を簡単に紹介し,次にウニの神経系の分類とそれぞれの発生に関してまとめる。さらに,機能に関しても我々が発見した情報を総じて紹介し,最後にウニ幼生の神経研究から得られる情報を進化学的観点からどう発展させられるのかを論じる。