5億年以上前に,脊椎動物の共通祖先は4種類の錐体タイプによる4色型の昼間視と,桿体による薄明視を獲得した。これら視細胞にはそれぞれ独自の光シグナル伝達系が備わり,特徴的な細胞形態を示す。これらの特徴は生物種を超えて高度に保存されており,進化距離の離れた生物においても視細胞を同定することが可能である。その一方で,個々の生物種における視細胞の応答は,生息する光環境に応じて独自に調整されており,視細胞の種類数も劇的に変化している。本総説では,3種の脊椎動物(ゼブラフィッシュとハツカネズミとヒト)において,転写調節因子による視細胞の分化メカニズムを比較し,視細胞の種類が種間で相同であるかどうかを探究する。さらに,魚と哺乳類の共通祖先が保持していたであろう4つの錐体タイプの細胞分化ネットワークが,現生の哺乳類が備える2つの錐体タイプのネットワークへと進化的に移行した経緯を考察する。
ウニは古くから実験生物学の材料として重宝されてきた。特に,発生生物学や細胞生物学の分野においてはウニから発見された現象や分子メカニズムが生命科学の進歩に寄与した例は多い。しかしながら,こと神経科学の面においてはウニを材料とする研究者人口は非常に少なく,長らく分子的な情報もほとんど存在しない状況であった。そのため,個々の研究室から細々と形態的な報告がなされるだけで,神経研究はウニの研究業界の中でも主流とされる分野とは一線を画すものであった。一方,90年代後半から2000年代前半の10年間にかけて分子的なツールが整備されたことや,アメリカムラサキウニのゲノムプロジェクトに伴いウニの研究業界の中でも神経に着目した仕事が徐々に増加し,近年にかけてEvoDevoの観点からも注目領域のひとつとして発展しつつある。そこで本総説では,ウニ幼生の神経系に着目し,その形成過程と機能に関してこれまで発表された論文を紹介する。まず,本雑誌であまり馴染みのないウニに関してその進化系統,発生,研究の歴史を簡単に紹介し,次にウニの神経系の分類とそれぞれの発生に関してまとめる。さらに,機能に関しても我々が発見した情報を総じて紹介し,最後にウニ幼生の神経研究から得られる情報を進化学的観点からどう発展させられるのかを論じる。
私たちヒトが日常で地球の磁気(地磁気)を感知することはないが,鳥類や爬虫類,両生類,魚類,昆虫,果ては細菌に至るまで,様々な生物種において地磁気受容能が示されている。動物では特に,渡りや回遊,帰巣のためのナビゲーションに地磁気を利用していると考えられている。生物の磁気応答の仕組みには,「マグネタイトメカニズム」と「ラジカルペアメカニズム」という,2種類のメカニズムが考えられている。マグネタイトメカニズムは,微小な磁性粒子を利用する機械的な方法であり,一方,ラジカルペアメカニズムは,光エネルギーを利用する化学的な方法である。これらのメカニズムの詳細は不明な点が多いものの,それぞれ細菌および鳥類において研究が進んでいる。本稿では,磁気受容能をもつ生物,ならびに上記の2つの磁気受容メカニズムの特性の違いを紹介し,筆者らがこれまで研究対象としてきたラジカルペアメカニズムについて,自身の研究と近年の研究動向を踏まえて紹介する。