メキシコの詩人マヌエル・アクーニャの詩篇「死体の前で」(1872)は、古代ローマの詩人ルクレティウスの『物の本質について』に着想を得て書かれたものである。この二篇の関連性は長らく注目されてきたが、影響関係を実証した研究はまだなされていない。本稿では、デジタルアーカイヴを用いてアクーニャの時代の新聞の中に探し当てた、ルクレティウスの名の言及された記事を参照し、実証的な検証を行う。まずは二詩篇の対応関係を確認した上で、両者をつなぐ接点となったテクストがあることを検証する。次いで、復興共和政時代のメキシコにおけるルクレティウスの受容について検討する。検討の結果、自由派と保守派、自然科学の推進者とカトリックの擁護者が繰り広げた思想論争の中でルクレティウスが注目されていたこと、そしてアクーニャもこうした文脈を共有していたことが明らかになるだろう。