抄録
初期近代英語期(1500–1700年)は英国ルネサンスの時代を含み,同時代特有の
古典語への傾倒に伴い,ラテン語やギリシア語からの借用語が大量に英語に流れ込ん
だ。一方,同時代の近隣ヴァナキュラー言語であるフランス語,イタリア語,スペ
イン語,ポルトガル語などからの語彙の借用も盛んだった。これらの借用語は,元
言語から直接英語に入ってきたものもあれば,他言語,典型的にはフランス語を窓
口として,間接的に英語に入ってきたものも多い。さらには,借用要素を自前で組
み合わせて造語することもしばしば行なわれた。つまり,初期近代英語における語
彙の近代化・拡充は,様々な経路・方法を通じて複合的に実現されてきたのである。
このような初期近代英語期の語彙事情は,実のところ,いくつかの点において明治
期の日本語の語彙事情と類似している。本論では,英語と日本語について対照言語
史的な視点を取りつつ,語彙の近代化の方法と帰結について議論する。