抄録
ドイツ語が近代化するには,造語力の強さが命綱であった。17世紀ドイツの代表
的な文法家ショッテルの言説を見ると,外国語由来の単語がドイツ語化されたのは
単に言語純化思想ゆえではなく,ドイツ語の造語力を誇示してドイツ語の豊かさを
「証明」し,そしてさらには,造語により学術を推進したいという動機があったこ
とがわかる。その流れのなかライプニッツは18世紀初めに,学術術語をドイツ語化
してドイツ語を文化言語へ改良する方法について提案を行った。ショッテルもライ
プニッツも,過度な純化主義は取らず,外国語由来の単語を温存することを意識し
た。それは,結果的に外国語由来の単語とそのドイツ語化とが併存することにつな
がり,それによって文体的差異を表現することになった。かくして上田萬年は19世
紀後半に,すべての学術を自前の語彙で表現できるドイツ語を驚嘆の目で見たので
あった。