歴史言語学
Online ISSN : 2758-6065
Print ISSN : 2187-4859
古英語強変化動詞における s–r 交替の消失について
藤原 郁弥
著者情報
ジャーナル フリー

2024 年 13 巻 p. 17-29

詳細
抄録
古英語の強変化動詞では現在形、過去単数形と過去複数形、過去分詞形との間に ヴェルナーの法則に由来する子音交替が生じるが、一部の動詞ではこの子音交替が 消失する。特に、ロタシズムを経た s–r の交替に関しては、第I類動詞 rīsan “rise”、 第V類動詞 lesan “collect”、 同じく第V類動詞 nesan “escape” の 3 つの動詞において そのような子音交替が見られない。この現象は長い間平準化 (levelling) によって説 明されてきた。この見解は一般的に受け入れられているが、形態的要因のみに基づ く説明では OE wesan “be” を除く第I類、第V類動詞では s–r 交替が消失するのに対 しすべての第II類動詞においてこの子音交替が維持される理由については説明する ことができない。
 そこで本研究では、上記 3 動詞における s–r 交替の消失について、古英語におけ る /r/ 音の異音分布が関係しているという新たな仮説を提唱し、古英語以前の時代 に /r/ が舌尖音を異音として持っていたことによりロタシズムが発生したという神 山 (2014) による仮説を導入する。さらに s–r 交替が消失した第 I 類と第 V 類動詞は 過去複数と過去分詞の語幹に前舌母音をもち、s–r 交替を保った第 II 類動詞は後舌 母音を持つという音声環境の違いを考察し、前者では /r/ が硬口蓋寄り(=舌尖音) で調音され、後者では軟口蓋寄りで調音されたことを論じる。そして、そのような 異音の分布状況において、本来の語幹末子音である /s/ との差異が小さい舌尖音の /r/ を持つ第I類、第V類動詞の過去複数形および過去分詞形において s–r 交替を排 除するような類推が働いたという結論に至る。
著者関連情報
© 2024 日本歴史言語学会
前の記事 次の記事
feedback
Top