抄録
日本では,1989年の「1.57ショック」以降,「子育て支援」という言葉が少
子化対策の一環として使用されるようになった。一方産業化と都市化の最中に
ある中国では,子育て支援はまだ政策的な議論に上っていない。
本稿では,日本と中国の都市における子育て家庭を取り巻く支援環境につい
て,質的調査をもとに分析する。具体的には,支援学の「五助」の観点から,
家族・親族(自助),友人(互助),地域(共助),行政(公助),市場(商助)
はそれぞれどのような役割を果たしているか,その実態を考察する。
日本では,少子化への危機感から,政府は両立ライフの推進や児童手当の給
付などの子育て支援策を打ち出してきた。また,母親の「育児不安」という問
題を背景に,地域の子育て支援が着目されている。さらに,ママ友の間で互助
が生まれ,子育て家庭の自助を補完する手段として,公助・共助・互助の混合
活用による支援構造が見えている。
一方中国では,子育て支援は,家族・親族間での相互援助,託児施設の充実,
中高所得層でのベビーシッター利用などにより,まだ政策的課題として浮上し
ていない。しかし,産業化と都市化の進展に伴い,家族力の低下は避けられな
い。将来の見通しとして,家族・親族による自助のみならず,家政・保育サー
ビスといった商助や,「社区」という地域社会での共助も含め,より幅広いファ
クターによる子育て支援ネットワークの構築が求められるだろう。