抄録
これまでの研究で,単為結果性キュウリは連続着果させると(着果負担が多いと)後から開花した上位節の花(子房)は成長せずに停滞相に入り,着果負担が解除されると成長を再開し,解除されないとそのまま落果することが報告されている.複数の果実が着生している場合,果実の成長や停滞には果実の(あるいは果実間同士での)内生ホルモンが関与しているという説がある.よって,内生ホルモン濃度を制御することでキュウリの流れ果による収量低下を軽減できる可能性がある.そこで実験 1 では,外生植物成長調節剤(PGRs)が連続着果させた全雌花性キュウリの収量と個々の果実成長に及ぼす影響を調査した.過去に非単為結果性キュウリの果実成長を促進した報告のある PGRs(IAA, TIBA, BA, and GA3)をラノリンペーストと共に 6–25 節の開花時に各果柄に塗布した.TIBA と BA 処理では無処理より有意に収量が高く,IAA と GA3 処理では中位節と上位節の流れ果(落果)が増加し,収量が低下した.また,PGRs によって多数の果実の成長や停滞のパターンや成長開始の間隔が変化することが明らかとなった.実験 2 では,外生 PGRs が実際に内生のホルモン濃度に変化を与えているのか確認するため,また,実験 1 で落果が多かった IAA をさらに高濃度に与えた場合,着果負担が小さい植物体でも落果が生じるのかを確認するため,1 果のみ着果させた植物体に PGRs を与えた.その結果,IAA と BA 処理の果実成長が抑制されたが,過剰に IAA を与えた区も含め,全ての処理区で流れ果は発生しなかった.さらに IAA と TIBA 処理区では果実内の IAA とサイトカイニン類(Z,ZR,iP,iPR)が増加した.これらの結果から,着果負担の小さい状態では PGRs によって流れ果は発生せず,果実内の内生ホルモン濃度だけでは必ずしも流れ果の発生にはつながらないことが示唆された.