2017 年 86 巻 1 号 p. 113-120
夏に開花する小ギクの茎頂形態変化と開花期の関連を 2 年に渡って調査した.近年の温暖化等による不安定な天候により,屋外で育つ農作物の安定生産が困難になってきている.花き作物を含む多くの植物では,開花は日長や温度によって誘導される.モデル植物を使った分子生物学的研究から,開花の制御に関わる分子メカニズムが解明されてきたが,屋外で育つ農作物に適用するのは,不安定な気候,および分子生物学実験を行う機器が農家にないなどの理由により困難である.簡易な形態マーカーの開発によって開花時期の予測ができれば,屋外で農作物を栽培する農家に有用だと考えられる.我々は,京都で栽培されているコギク 5 品種を解析し,開花期を予測する簡易な形態マーカーの開発を試みた.毎週観察した茎頂の直径を無料のイメージング解析ソフトウェアで計測し,茎頂の肥大は初期の遅い時期と後期の早い時期の 2 つの段階があること,茎頂の幅が花の発生ステージと直線的な相関をもつことを見出した.花の発生ステージを定義し,栽培地の気象データと比較することで,品種によって異なる環境への応答性を定量的に示すことが可能になった.これらの結果から,実体顕微鏡による茎頂の継時観察という比較的簡単な作業により,品種ごとの気候への応答性を把握でき,開花期を予測する形態マーカーとして有用であることが示唆された.