法学ジャーナル
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論説
朝鮮戦争と集団的自衛権
―有事法制における憲法論議を中心として―
江口 直希
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2019 年 2019 巻 96 号 p. 37-177

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抄録

本稿は集団的自衛権が1945年から今日まで行使されたことがないのか検証することを目的とする。また、本稿は日本を取り巻く国際環境が刻々と変化し、従来の考え方が国際社会において通用しにくくなってきている今日、安全保障環境を憲法解釈というレンズを通して判断することは非常に重要であると考えたことを問題意識としている。

2015年に成立した安全保障関連法案は限定的な集団的自衛権の行使を認めるものであり、国際環境の変化を如実に示すものであった。この法案が審議されている間、国会近辺等では学生団体まで巻き込んだ反対運動が展開され、テレビや新聞もこれを大々的に喧伝した。この時に反対する勢力が口を揃えて言ったのはこれまで1人も戦死者を出していない自衛隊が集団的自衛権の行使容認によって戦死者が出るような組織になってしまうのではないかという危惧であった。

では、これまで、本当に戦後日本は集団的自衛権を一度も行使したことはなかったのであろうか。このことについて研究を始めた際、偶然、朝鮮戦争時に日本が朝鮮海域に「日本特別掃海隊」を派遣していたことを知った。そして、そこでは若い隊員が「戦死」していたのである。

朝鮮戦争はどのような経緯で始まり、どのような経過を辿ったかについて、国際環境や戦局を概観し、当時組織された国連軍がどのような状況にあり、日本の助けを必要としていたかについて考える。

そして、この戦争において日本は自国の領域内外においていかなる協力を行ったのか。占領期であったとはいえ、日本国憲法が施行されて5年経つ日本が行った協力について考える。日本が行った協力には現在の法制ではとても考えられないような協力を行っている場合もあり、これについては政治的判断以上の解釈を行うことは難しい。

その様々な協力を踏まえた上で、現在、日本国憲法下において国防任務にあたっている自衛隊の成立過程と変化してきた憲法解釈についても考え、どのような解釈が時代の変化とともに採られるようになってきたのかを併せて考える。

日本の憲法解釈の変遷に基づいて、PKO協力法、周辺事態法、イラク特措法、そして平和安全法制について、成立の経緯や歴史、当時の国際環境等を勘案し、述べていく。

そして最後に、日本の集団的自衛権行使を限定的ながら認めるという新しい憲法解釈が政治的判断を狭めるものであり、時代に適したものであるのか、そうでないのかについても判断する。

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© 2019 本論文著者
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