保全生態学研究
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ハス田とイネ田における冬期湛水の有無が作物成長期の水生動物相に与える影響
岩田 樹藤岡 正博
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2006 年 11 巻 2 号 p. 94-104

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抄録

近年、冬の乾田に水を張る冬期湛水が生物保全の一手法として注目されている。一方で、乾田も春から夏には一時的水域に適応した多くの水生動物に利用される。そこで、ハスを栽培するために冬期湛水されるハス田と、イネを栽培し、冬期には落水されるイネ田の間で、ともに湛水状態である作物成長期における水生動物相を比較した。茨城県南部地方の5地区15地点の隣接するハス田とイネ田において2004年4月から7月に月2回、計8回、動物プランクトンと水生小動物を採集した。動物プランクトンの容積当たり個体数はイネ田よりハス田で多かった。水生小動物全体の個体数と生重は、イネ田では6月前半にピークとなる一山型の季節変化を示したが、ハス田では7月にかけて増加した。イネ田では5月にアメリカザリガニ(Procambarus clarkii)、6月にカエル類幼生と昆虫類が優占したのに対し、ハス田では4-5月にニホンアカガエル(Rana japonica)幼生、6-7月に魚類が優占した。ヒメゲンゴロウ(Rhantus pulverosus)幼虫、ゴマフガムシ(Berosus signaticollis)、フナ類(Carassius spp.)、モツゴ(Pseudorasbora parva)、ニホンアカガエル幼生はイネ田よりハス田で多く、アカネ属(Sympetrum spp.)幼虫、ニホンアマガエル(Hyla japonica)幼生はハス田よりイネ田で多かった。ハス田はイネ田とは異なる生物相に利用されており、両水田の存在が地域の生物多様性保全に貢献していることが示唆された。ただし、こうした違いは冬期湛水の有無だけによるものではなく、作物成長期間中の水管理と農薬・肥料の投入量の違いも影響していると考えられた。

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© 2006 一般社団法人 日本生態学会

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